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HOME>ひとりダ・ヴィンチ

最悪

ラジオの「テレフォン人生相談」で、児玉清さんの声が流れていた。

どうやら生前に録音した回が残っていたようだ。

「テレフォン人生相談」は、AMラジオをよく聞く人であれば大抵の人が「聞いている」と答える人気番組だ。

このラジオ番組が人気である理由は明らかだ。


人は、他人の不幸話が好きだから。

他人の不幸話を聞くと安心するからとも言える。


これは綺麗事ばかりでは覆い尽くせない人間の感情の核心だと思う。

人間は弱い。

自身の「苦労」を乗り越えるために、「でも、あの人よりは恵まれている」という対象が必要だ。




今年初めてとなる小説を読み進めていくうちに、

そういった他人の不幸が気になる人間の性分を、自身の中に感じた。


奥田英朗の「最悪」という小説の文庫版を読んだ。


当初、「最悪」という端的なタイトルは、ストーリーに対するフェイクだろうと思った。

そういうタイトルを掲げておいて、実は描かれる物語とその顛末は、意外に軽妙なんじゃないかと邪推した。

しかし、そうではなかった。

3人の人間の平坦な人生が突如として乱れ、「最悪」な方向へ崩れ落ちていく様がひたすらに描かれる。

これでもかと暗転してく三者三様の運命は、まさにタイトルにふさわしい。

みるみるうちに人生が転覆していく様の緻密な描写は、読んでいて決して気持ちの良いものではない。

しかし、不快感が膨らむと同時に、彼らの人生模様から目が離せなくなる。


クライマックスに差し掛かり、並行していた3人の人生が途端に交じり合う。

これが普通の娯楽小説であれば、そこから奇跡的な好転を見せるのだろうが、この物語はそれを許さない。

更に、人生が転落するスピード感を見せつける。


「最悪」という感情をいくつも越えて、3人が辿り着いた運命はいかなるものだったか。

結末は、「爽快」という言葉とは程遠いが、深く、濃い、感慨に包まれる。


“人生の厳しさ”なんて言葉では余りに足りない、人間の営みの本質的な“危うさ”に触れる作品だった。



最悪 (講談社文庫)最悪 (講談社文庫)
(2002/09/13)
奥田 英朗

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